2021年12月19日日曜日

プロコフィエフ ピアノソナタ1番3番5番7番 ニコライ・ペトロフ

 ニコライ・ペトロフの日本での知名度がどれくらいか知らないが(あまり知られていない?)、力でひたすらぐいぐい押しまくるようなイメージなのではないかと恐れています。ペトロフのプロコソナタが好きなので、もしこのように思われているなら不本意です(ペトロフも私も)。

ソナタ1番

プロコフィエフにしては非常にわかりやすい抒情的な1番ソナタ。テクニック的には十分難しいですが、他のソナタに比べるとまだ弾きやすいのかも。それでもこれだけ音の詰まった曲で、これだけはっきりと旋律を際立たせ、それでいて他の一音一音がくっきりと聴こえ、さらにすっきりと聴こえる演奏は他の追随を許さないと思います。抒情的と言っても、この曲はまったり感はいらないでしょう。

中間部クライマックス7連符のあたりからの、弦が唸るような鳴らしっぷりにしびれます。

そしてAllegroに入ってからしばらくしてのdolce。甘くないdolce。素晴らしい。テクニック的にこれだけの完成度で、これだけの抒情性で…このさじ加減が絶妙なんですよ。

ソナタ3番

弾丸が飛び出していくような冒頭。ペトロフの場合、機関銃照射と言うより大砲の連射と言った方がしっくりくるような破壊力。音の濁りが無い。打鍵の強さが半端ない。ほら力で押しまくっているじゃん、と言われそうですが違うんです。力で押し進んでいるわけではないのです。力で押しているのはその場を垂直方向に、推進力となっているのは、小節から小節へと次々手繰り寄せる、曲への完璧な理解度なんです。あー、上手く表現できません。とはいえ、この曲は純粋にペトロフの力技を堪能すべし。

ソナタ5番改訂版

作品38から改訂して作品135で最後の作品。大幅な改訂。

1楽章:ハ長調ですよー、明快な旋律ですよーと、とっつきやすそうな振りして実はフフフな曲。明快な振りをしている曲ですが、何を言おうとしているのか、私にはわかりにくい曲です。

2楽章:Andantino。スケルツォの指示はありませんが8分の3拍子です。淡々と過ぎ行く曲。

3楽章:展開部途中から改訂して別な曲になってしまっていますが、コーダの超絶技巧ぶりがすごすぎて晩年にこんな曲を書くとはプロコフィエフおそるべし。そしてこの超絶技巧ぶりをさらりと披露するペトロフも恐るべし!

ソナタ7番

戦争ソナタの1つですね。対照的な2つの旋律で構成される1,2楽章と、爆発的な終焉へ一直線に駆け抜ける3楽章。もうペトロフの本領発揮ですよ。

1楽章:タッカタッカのリズムをひっさげながら、ぐいぐいとクレッシェンドしていく様といい、弾性係数2かと思うほどの音の跳ね方といい、強靭なタッチっといい、ペトロフのいいところを堪能できます。寒さと少しの乾きを感じられるカッコよさ。

2楽章:ほの明るさを持った第1主題。16分音符が混ざり始めて少しずつ動きが出てきて最初の極点へ。鐘が鳴り始める。フォルテッシモが続くけど、明確な頂点は見えない。鐘。ずっと鐘が鳴り響く。ロシアの灰色の空と不穏な空気。そして冒頭の静かな歩みのごとくな旋律に戻り、中間部の暗さを引きずったまま、ほのかな明るさも混ぜ込み、曖昧な空気で終わる。清も濁も、光も闇も、すべて混ざり合って曖昧に存在しているようなロシア的な終わり方。ペトロフ最高。

3楽章:もう好きすぎる演奏。これ聴いているとダメになります。機械みたいだと、何とでも言ってください。スタミナ切れの心配皆無。悪魔的な正確さで安定的な勢いで最後まで突き進む。この楽章は機械で結構。もし生演奏聴いたら、絶対スタンディングオベーションする。

SUCD 10-00208


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