オフチニコフの音の絵全集。Op.39-5に絞った感想です。
雰囲気とスタイルが物凄くいいですよね。背がすらっと高くて、柔らかい物腰で話すさまは、底知れぬ魅力を放っています。
このop.39-5の深い深い奥行、所々に散りばめられたひっそりと人知れず在る輝石、鳴り響く鐘の音。うねる感情、抑制する力、それでもほとばしる情熱、哀しみに満ちているのに決して失われない希望。傲慢なのに繊細で、大胆なのに臆病な。背反する2つを同時に内包する、複雑なロシア的なもの。
そういったものをすべて弾ききっているのが、この1枚だと思います。
冒頭から8小節目までメロディーをはっきりと紡ぎながら小さな山をきっちりとつくり、sempre marcatoで再びのフレーズを明らかに前回より動力を得てすすみ、22小節目へのフォルティッシモへきれいにつなげる。中間部は必要以上にもやもやしない、陶酔しない。クリアで美しい音色できっちりおさめ、41小節目からの超絶技巧部分は、難なく軽々と弾きこなしすぎて、聴いている方にも「簡単に弾けそう」と錯覚させるほどの恐ろしさ。テンポプリモの低音メロディは、きっちりと、決然と、口を引き結んで胸を張って進んでいるような。たった一つのこの演奏の気になる点としては、60小節目からのフォルティシシモからフォルティシモにかけてのフレーズが、少々重みに欠けること。これはこの人の華奢さからくるものかもしれないし、録音のせいかもしれないし。コーダは灰色の空ひろがるロシアの空気感を漂わせていて、感情的になりすぎずに終わるところが凛々しくてすばらしい。
ともあれ、ヨーロッパロシア的な部分のラフマニノフを体現していて、透明感にあふれているのに軽すぎなく、大胆で堂々としているのに重すぎるところがなく、私にとって神々しい一枚。(演奏時間5'31)
TOCE-7490 Rachmaninov Etudes-Tableaux Op.33 Op.39 Vladimir Ovchinikov |
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